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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
田舎には母親と弟妹たちがいるらしくて、弟の四つばかりになる息子を、オリガは「私の英雄」とよんで、可愛がっているのだった。ソヴェトでは、まだ珍しいその甥のスナップ写真が伸子たちに見せられた。
「あなたがたに、ほんとうのロシアの田舎というものを見せてあげたい!」
長年の勤人生活になれたオリガの丸っこくて事務的な頬と眼の中に、あこがれが浮んだ。
「あなたがたがどんなに夢中になるか。わたしによくわかる!」
シガレット・ケースをあけてオリガにもすすめながら素子が、「外国人」である自分を自分でからかうように、
「わたしたちだって、いくらかは『ロシアの田舎』を見ていますよ」
と云った。
「すくなくとも、タガンローグの蠅は、ワタシの鼻のあたまを知っている」
アゾフ海に向って下り坂になっている大通りのはずれに公園をもっているタガンローグの町は、チェホフの生れたところだった。タガンローグの町に唯一のチェホフ博物館があって、そこにはチェホフに直接関係があってもなくても、とにかく町の住人たちにとって見馴れないもの、あるいは日常生活に用のないものは、みんなもって行って並べることにしてあるらしかった。