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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
うっとりするほど壮大で美しい、そしてほこりたかい五ヵ年計画を完成するために、努力の日々の中でソヴェトの人々はどんなに各自の生活を重点的に整理しているか。その現実を伸子が身に添えて理解するのは、パッサージで買えない日のあるようになったバターの問題であり、ノーソフの意気銷沈の意味であり、台所と食堂のその廊下に据えられた一台のテーブルとそこへ来た婦人――その人のいる間、なぜホテルの階下は陰気になっていたか。それから代った青年になって、カーチャの笑声をきくことができるようになったのは、何故かの問題だった。
伸子のささやかな存在は、生活そのもので五ヵ年計画のすべての壮大さと、同時に、うけとらずにいられない日常的なこまかい現象の一つ一つを味わいかみしめて感じとっているのだった。
ある晩、芝居から帰って来て、伸子はのどが乾いてたまらなくなった。外套をぬいだばかりで、伸子が、
「お湯をとって来る」
空色ヤカンをとりあげた。
「もう、しめてるだろう」
「ともかく、行ってみるわ」
十二時すぎた裏階段を、伸子は階下まで駆けおりた。そして、大いそぎで台所への廊下をゆくと、従業員休憩室はとうに暗いが、いいあんばいにつき当りの台所のドアはまだあいていた。