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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、ひょいと体をうかすようにして手をのばし、テーブルの上から二通の手紙をとった。手紙のわきには、キリキリとかたく巻いて送られて来た日本の新聞や雑誌の小さいひと山が封を切っても、まだ巻きあがったくせのままあった。マリア・グレゴーリエヴナのところへ稽古に出かけたかえりに、伸子は例によって散歩がてら大使館へよって、素子と自分への郵便物をとって来たのだった。
伸子は、針をさしたつくろいものをブルーズの膝の上にのせたまま、一遍よんだ手紙をまた封筒からぬき出した。
乾いた小枝をふんでゆくようなぽきぽきしたなかに一種の面白さのある字で、河野ウメ子は、伸子にたのまれた小説の校正が終って近々本になることを知らせて来ていた。そして、春にでもなったら、京都か奈良へ行ってしばらく暮して見ようと思っているとあった。奈良に須田猶吉が数年来住んでいて、その家から遠くないところにウメ子の部屋が見つかるかもしれない、とかかれている。この手紙は、素子様伸子様と連名であった。伸子は、ウメ子の手紙にかかれている高畠という町のあたりは知らなかったが、雨の日の奈良公園とそこに白い花房をたれて咲いていた馬酔木の茂みは、まざまざとして記憶にあった。