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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
年よりの柔かくなった筋肉につつまれていても、短くて四角い山上元の顎は、何と強情で、まけじい魂をあらわしているだろう。節のたかい太い指。剛い眉。山上元の住んでいる室内にも彼自身の体にも、新しいと云えるものは一つも見あたらなかった。けれども、日向の古い石が確りしていて清潔であるとおり、七十歳の山上元は、強情にしっかりしていて、さっぱりしていた。年とった大きい犬と、仔犬とが、かぎあって、互に不満足でなかったときのような親しい感じが伸子の心に湧いた。
「――『自伝』を、ずっと前、拝見しました。それから、この間うちインプレコールへ出たようなものも――」
「世界的経済恐慌の軌道における日本」という山上元の論文は、日本共産党の事情を知らない伸子に、その任務や、目下たたかわれている闘争の状況、党内の偏向は右翼日和見の清算主義であることなどを教えた。ウォール街のパニックと連関する日本の経済恐慌と戦争準備の事情についても伸子は非常に多くのことを学んだ。
「そうか。僕も、よっぽど前、何かの雑誌で、きみの書いた小説をよんだことがある、何だったかもうおぼえちゃいないがね」
山上元が、僕というとき、それは紺がすりを着た老人という感じだった。