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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
じゃないでしょうか」
「うむ」
ほんの瞬間だが、山上元の皺のふかい顔の上に遠い、とらえどころのなくなったどこかを思い出そうとするような表情が浮んだ。そのかげには、数十年の月日がたたまれているその表情は、すぐ消えた。
「きみは、日本平民新聞を見たことがあるかい」
「いいえ」
「見せてやろうか」
「ほんとに? 持っていらっしゃるんですか?」
「見せてやろう」
再び寝台の置かれている隅へひっこんだ山上元は、伸子が予期したよりずっと短い時間で、窓ぎわのテーブルのところへ戻って来た。
「創刊号からちゃんと揃っている」
テーブルに置かれた平民新聞のとじこみは、二十六年の古びを帯びながら、実によく保存されていて、新聞紙の端さえめくれあがったり、やぶけたりしていなかった。
「まあ、何てちゃんとしているんでしょう!」
伸子は心から感歎した。昔、自分たちが日本で出した平民新聞をこんなに丁寧に今もなお保存しつづけている山上元の気持がわかるように思った。たまに山上元とのインタービューに成功した日本人の新聞記者は、いつも、山上元の郷愁について語った。彼が世界的な日本の革命家としてコミンターンのうちに重要な地位をしめながら、やはり心の底には日本への郷愁をもっていると書いていた。