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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
をこのんだ。その結果、伸子たちが歩いた街々に波うっているプラカートは、幾千、幾万つらなる赤い旗が、その中にどんな別のひと色もまじえない赤旗ばかりであるように、スローガンも似たりよったりのくりかえしだった。絶滅せよ! につづいて、あるものは帝国主義戦争、あるものは買占人。絶滅せよ! 官僚主義。という風に。――
たっぷりした日光をうけながら、埃っぽい公園の河岸っぷち道をゆっくり帰ってゆくプラカートの「成功に眩惑するな!」という黒い文字は、不思議に新鮮で、生活感をよびさましながら伸子の心をひきつけた。
プラカードに気をとられながら伸子の頭の中に、ホテル・パッサージの従業員の部屋の「赤い隅」の光景がうかびあがった。伸子たちがアストージェンカから越して来た時分、その部屋のうす青い壁の上に、プラウダから切りぬかれたスターリンの論文が、壁新聞にして貼ってあった。その論文の題が「成功の眩惑」だった。スローガンは、まぎれもなく、そこからとられている。
農村のコルホーズ化が急速に成功して、二月下旬にはソヴェトじゅうの農家の五〇パーセントが集団化され、春の蒔きつけ用の種子がもう計画の九〇パーセント集められたと、各新聞は賑やかに報告して間もないころだった。