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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

動坂の家の食堂のあっちこっちの隅には、いつもあらゆる形の箱だの罐だのがつみかさねられていた。中村屋の、「かりんとう」とかいた卵色のたてかん、濃い緑と朱の縞のビスケットの角罐、少しさびの来た古いブリキ罐、そんなものが傍若無人に、どっしりした英国風の深紅色に唐草模様のうき出た壁紙の下につまれている。それは一種の奇観であった。中央の大テーブルの多計代がいつも坐る場所の下には、二つ三つの風月堂のカステラ箱がおいてあって、その中には手あたり次第に紙きれだの何だの、ともかくそのとき多計代がなくしては困ると思ったものが入れてあった。だから、動坂の家で何か必要な書きつけが見つからないというようなことがおこると、まず多計代から率先してふっさりしたひさしの前髪をこごめて、大テーブルの下をのぞいた。この習慣は、伸子たち動坂の子供にとっては物心づいて以来というようなものだから、食堂にとおされるほど親しいつき合いの人なら、その客のいるところでも、必要に応じて伸子のいわゆる「家鴨の水くぐり」が行われた。ときには多計代が、何かさがしていて、どうも見えないね、というやいなや、伸子が音頭をとって、テーブルについている四人の息子や娘たちが一斉にテーブルの下へ首をつっこんで、わざと尻をたかくもち上げ、家鴨のまねをした。