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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ベルリンで毎日世話になっていた川瀬がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来たのに、何のもてなしもするひまがなくなってから会うことになったのを、素子はひどく残念そうだった。
「――ひとこまらせだよ、こんなの……」
「出かけてしまっているかとも思ったんだが、ひとめ会おうと思ってね」
もうやがて十一時になる時刻だった。伸子は、ひとのいい若い女らしい気のもみかたで、素子に相談をもちかけた。
「ねえ、川瀬さんに、なにをお祝いする? もって行かせなけりゃ。こっちから品物は送れないんだから」
「何にもいらないよ」
「そうは行かないがね」
考えていて、伸子と素子とは、いちどきに口をききかけた。
「この間クスターリヌイ(民芸美術館)へ行って買って来たものを出して、見てもらおう。その中から気にいったものをよってもらうのがいいだろう」
「わたしもそう思ったところだった。じゃ、すぐ出す」
床の上にひざまずいて、伸子は自分の寝台の下におしこんである籐の大籠をひき出した。そして、ロシア刺繍のほどこされた数枚のテーブル・センターと、まだ仕立ててない婦人用ルバーシカを、テーブルの上に並べた。