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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
が、ドイツ語からロシア語に翻訳されるということだった。「一九二八年三月十五日」も近々ロシア語になるということだった。
「いまに、日本のプロレタリア文学の作品はどしどし翻訳されるようになるよ、東洋語学校の日本語科の卒業生が急速にふえているからね」
山上元は、しばらく言葉をきって、伸子の存在をもこめて前方の壁を見ていたが、
「どれ、またジャムを御馳走しようか。この間のは、うまかったろう?」
椅子を立って、ベッドの裾のついたての蔭にはいった。そして、間もなく、全くこの前のとおりの、無骨なくせに、何でもできる手つきで両手に茶のコップをもって現れた。とりつくろわないそのかっこうに伸子はつよい親愛感をもった。若い女が、ふとしたときに老人に対して抱く暖かい好感が伸子の胸をみたした。伸子は、その室の隅にとりつけられている二人がけの小長椅子にかけたまま、この前のように遠慮せず、両手にコップをもって運んで来る、ずんぐりした山上元の様子を、うれしそうに眺めていた。来るたんびに、御自慢のジャムを御馳走になり、それを自分も面白がってよろこんでいる。伸子は、きっと自分ではいま子供っぽい顔つきになっていることだろうと思った。