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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「ネチャエフという男は、大した男だ」

と云った。

「つかまって、牢屋へぶちこまれて、いくど法廷へひっぱり出されても何一つ組織については云わなかった。それをよんで、きみが適当だと思う部分だけ翻訳すればいいんだ」

いや応ない山上の口調であった。

「それは、いそがないから、ゆっくりでいい。もっとも六月の半ばになれば、僕はクリミヤへ行ってしまうがね。日本のインテリゲンツィアは、あんまりいくじがないから、ひとつ、ネチャエフみたいに、しっかりした男もあるってことを教えてやる必要がある」

ネチャエフは、ヴェーラと同時代の人だった。一八〇〇年代の終りの革命家たちであり、ロシアの革命がテロリズムからマルクス主義の革命の方向に発展してゆく過程の人たちなはずだった。日本のインテリゲンツィアが、いくじがない、と云う山上の批判の内容が伸子にわからなかった。同時に、革命の歴史のちがう人民の意志党の英雄の伝記が、きょうの日本の人たちにどんな直接の影響をもつのかということも、伸子にのみこめなかった。

のみこめないままに伸子は紙の端々の黄ばんだ二冊の本をかかえて、リュックスを出た。

十五