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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ね、と例のテーブルの下の箱にしまわれていることを。カステラ箱にしまわれた伸子の手紙はなくならないかもしれないけれども、ほんのしばらくたてば動坂の人たちは、もうすっかりそれについて、何が書かれているかさえ忘れてしまっているのだ。動坂の人たちは伸子なしで充分自足しているのだから――。

伸子がいろいろの感情をもって打ちかえして見ている動坂のよせ書きの三頁めのところで、保が数行かいていた。ほそく、ペンから力をぬいて綿密に粒をそろえたノートのような字は、保のぽってりした上瞼のふくらみに似たまるみをもっている。これが、高等学校の最上級になろうとしている二十歳の青年の手紙だろうか。来年は大学に入ろうという――。保は、そのよせ書きの中で保だけまるで一人だけ別なインクとペンを使ったのかと思えるほど細い万遍なく力をぬいた字で、こうかいていた。「僕が東京高校へ入学したとき、お祝に何か僕のほしいものを買って下さるということでした。僕には何がほしいか、そのときわからなかった。こんど、僕は入学祝として本式にボイラーをたく温室を拵えて頂きました。これこそたしかに僕のほしいものです。