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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

つたない作品であったにしろ、レーニングラードでの五月のある朝、そうすることに伸子が、自分のまごころを現わせたのは、その小説が、ゴーリキイの文学にはない日本の社会の現実の一面を描いているからだった。その社会の中に生きる日本の女の、よりよく生きようとするはげしい願望の物語だからこそだった。そして、日本の社会や日本の家というものの重圧から、解かれて成長しようと欲する女の願いのはげしさこそ、こんにちのソヴェト社会の建設につながる一本の道に立つものであることを、伸子はふかく信じて疑わなかったからこそ、ゴーリキイが自分では決してよむことのない日本文の小説を、伸子は彼に献呈したのだった。

長い将来の年月にわたって――伸子は、紙の上につよく三角形をかいた――文字でかかれた報告から小説をかく自分――伸子は、紙の上の三角形から三方に長い線をひっぱった。――そんなことができるとはどう考えても思えない。あり得ない生活。仕事なんか、いくらでもある。そう山上元は云った。仕事はいくらでもある。――それはそうにちがいなかった。現にこうして、ネチャエフの法廷記録を訳すことだって、伸子のする仕事の一つであるのだから。