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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子は手をのばして、デスクのむこう隅においてある小説新聞をとった。イレッシュの小説特輯だった。イレッシュの代表的作品と紹介されているこの小説は、イレッシュが故国のハンガリーで書いたものだった。この事実のなかに、伸子の執拗なわからなさをひきつける何かの暗示がある。

伸子は、ソヴェトに来た翌年の夏、レーニングラードにいたとき、九十枚ばかりの小説をかいた。ソヴェトの生活に取材して、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)のアストージェンカに暮していた期間の印象や、レーニングラードの下宿生活をはじめてからの見聞を組立てた作品だった。

伸子は、あのころ、ほんとうに階級というものの歴史を理解していなかった。それぞれの国の革命の過程というものも理解していなかった。

あれから満一年たって、ベルリンやロンドンの生活からモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の社会を観てふたたびモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰って来たいまの伸子には、かえって小説が書きにくくなっている。伸子は、もうおととしの夏のように、自分の目の前に過ぎてゆく生活風景のいくこまかを、そのまま、切りとった小説はかけなかった。