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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ば、こうやって、ひろく両開きになっているフレンチ・ドアと露台との境のところに、クッションをおいて坐っているしかなかった。
三階にある伸子たちの室のバルコンからは、繁ったプラタナスに半ばかくされている古びた石塀ごしに隣りの内庭が面白く眺められた。その小庭は誰のもので、どういうところなのかわからなかったが、大きく枝をはったプラタナスの樹の下に、緑色に塗った東屋のようなものがあって、その屋根は麦藁ぶきだった。小さな窓に黄色いカーテンがかかっている。お伽噺めいた麦藁屋根の緑色に塗られている小屋に好奇心をうごかされて、露台へ出るたびに伸子はきっとそこを見おろすのだったが、人影をとらえたことは一度もなかった。人がいることのあるのは確かなのに。ほとんど、いつも緑の小屋の窓はあいていて、そこから黄色いカーテンがのぞいているのだから。
ヴォージラールのその裏側は、昼間でも静かに、ひっそりとしていて、たくみに出入口をかくされている緑の小屋のぐるりは石塀に囲まれている。その壁のそとに、フランス風に砂利をしいた小道がひとすじ通っていた。その小道をへだてて、鉄の手摺りがついた五段の入口をもった三階の家があった。