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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

が、それはそうでなく、はじめモンパルナスで一二度食事を一緒にしたぐらいのもので、磯崎のところでは伸子たちを食事によぶこともなかった。子供をつれた若い夫婦が、うちの食事にひとを招いたりするゆとりはない、という手間や入費の問題ではなく、磯崎は、パリの日本人たちのだらだらしたつき合いを余りのぞんでいないらしかった。何の気もなく訪問しているうちに、伸子と素子とは、磯崎のそういう感情をある程度自分たちにもわかる気持として理解した。しかしその感情では、磯崎と須美子とが必しも一つではないらしかった。須美子は、生れつき言葉のすくない心のなかにたたまれている現在のパリ生活のさまざまの思いにつれて、少女時代から知っている素子とパリで会ったことを懐しく思っているらしかった。あるとき、須美子が、

「ほんとに、何のおもてなしもできなくて」

まんじゅう頭のおかっぱの眼をあげて、伸子たちを見まもりながら残念そうに云ったことがあった。

「そんな心配をされちゃあ、かえって困っちゃう」

例の調子で素子があっさり云った。

「それよりか、たまには、わたしたちをひっぱりだしてもらって、うまいものでも一緒にたべましょうよ。