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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
しかし、素子と暮すようになってから足かけ六年の時がたち、伸子はいろいろな場合、素子が友人夫婦につき合う感情に、微妙な角度があることを理解して来た。素子は、友人夫婦の間を多くの場合シニカルに見た。それは、細君びいきの形であらわれることもあったし、素子から見るとあんな男の妻でいる女への批評となってあらわれることもあった。また男がそのしかつめらしく自信にみちた妻にしかつめらしく嘘をついているのをだまって目撃してる皮肉な笑いとして現れたりした。
良人としても二人の小さい子の父親としても若すぎ画家としても未完成でパリの生活に神経質になっている磯崎恭介に対して、須美子びいきの形からにしろ彼に嗜虐めいた感情をもつことを、伸子はこわく思ったのだった。
そのとき、二人はながいことだまって、ホテルの室のバルコンのところに坐っていた。やがて、素子が、うす明りのなかで大きい猫のように白いブラウスの胸をはってしなやかにのびをしながら、
「わかったよ。ぶこちゃん」
と云った。
「あのひとたちの感情にまで立ち入ろうなんかと思っちゃいないんだから」
そういうわけで、日曜日に素子が歯痛をおこすまで、伸子たちは、その週は一遍も磯崎のところを訪ねていないのだった。