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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「あちらの御両親に、わたしがおわかりになっていないのも無理はありませんわ。わたしたち結婚してたったひとつき、磯崎の田舎の家にいたきりなんですもの」

「田舎って――どこなんです?」

関東地方の、織物の中心地とされている小都会が磯崎の生家の所在地だった。彼は、そこの長男だった。

「わたしは、はじめっから御辞退しましたの。折角言って下さっても自信がないんですもの――でも……」

「磯崎さんがどうしてもって云うわけですか」

そう云って素子がほほえんだ。

「二人で行く方が、絵の勉強だって必ずよくできるってあんまりつよく云うもんですから――わたしもあのころは、絵だけはやれるものなら続けたいと思っていたものですから」

恭介と須美子とは、ある金持ちが、自分の娘たちの自由教育のために創立した学院の同窓生だった。二人を結婚させ、絵の修業にパリへよこしはしたものの、磯崎の田舎の両親は、須美子が出産の度に入院することもパリ風の特別な贅沢の染ったやりかたという先入観をもって見るらしかった。二人しかない子供の一人を、ひとにあずけてそのために里扶持を払っていることも、若い母である須美子が身がるでいたがるせいとしか理解していないのだった。