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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「窓の外の雀にパン屑をやるんだって、人は、もっとちがった云いかたをするものだと思うわ。あのひとは、心の底には憎悪をもって、子供たちに菓子を投げているのね、きっと。ソヴェトになったって、貧乏人の子供は、ほれ、この菓子をひろうじゃないか、あのひとは、そう思って、凄い顔つきで、お菓子を投げてやって、ひろうのを眺めるんだわ」
ペラーゲア・スチェパーノヴァは、革命やソヴェトや、地方で地主に反抗した農民に対してはげしい、病的な憎悪をもっている女だった。伸子と素子とは、反ソヴェト的な市民というもののいくとおりかのタイプを、芝居でみるよりも近く、会話一つ一つのこまかい心理にふれて、パンシオン・ソモロフのひと夏の生活のうちに観察した。
素子は、自分にむかって皮肉なうす笑いをもらして、窓のそばをはなれた。内庭でオールゴールを鳴らしている辻音楽師にとって、必要なのは十サンティームであり、それが投げて与えられる、ことが問題でないのはわかりきっていたから。わかりきっていても、何となしそうできにくくなっている自分の、人間として人間に対する感情を、素子は、思いがけない自分を見出したように眺めるのだった。