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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
舞台の時間が来てポリニャーク夫人が席を去ってから、ポリニャークが杯をあける速力は目立ってはやくなった。
秋山宇一は額まで赫くなった顔を小さい手でなでるようにしながら、
「ロシアの人は酒につよいですね」
頭をひとりうなずかせながら、すこし鼻にかかるようになった声で云った。
「寒い国の人は、みんなそうですがね」
「空気が乾燥しているから、これだけのめるんですよ」
やっぱり大してのめない内海厚が、テーブルの上に置いたままあったウォツカの杯をとりあげて、試験管でもしらべるように、電燈の光にすかして眺めた。それに目をとめてアレクサンドロフが、
「内海さん、ウォツカの実験をする一番適切な方法はね、視ることじゃないんです、こうするんです」
唇にあてた杯と一緒に頭をうしろにふるようにして自分の杯をのみほした。
「日本の酒は、啜るのみかたでしょう? 葡萄酒のように――」
「啜ろうと、仰ごうと、一般に酒は苦手でね」
内海が、もう酒の席にはいくぶんげんなりしたように云った。
「日本の神々のなかには、大方バッカスはいないんだろうよ。あわれなことさ!」
伸子はハンカチーフがほしくなった。