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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
話す言葉は、間違いだらけでも、必要によって通用した。伸子の読み書く能力は、非常に劣っていた。自分の片ことのロシア語についても、伸子は昨夜の「にぇ まぐう」のことから不快を感じはじめているのだった。
「いまの作家で、だれの文章がやさしいのかしら」
素子は、考えていたが、
「わからないね」
と云った。
「外国人にわかりやすい文章とロシア人にわかりやすい文章とは、すこしちがうらしいもの。大体、ロシア人は新しい作家のは、やさしいっていうけれど、わたしたちには反対だ、訛や慣用語、俗語が多くて――バーベリなんかどうだい。文章はがっちりしていてきもちいいけれど、やさしいどころか」
それは伸子にも推察された。
「ケンペルの文章、ほんとにやさしいのかしら」
本屋でヴェラ・ケンペルの『動物の生活』というお伽噺めいた本を伸子が買って来たことがあった。やさしそうなケンペルの文章は、言葉づかいがいかにも未来派出身の女詩人らしく、それがわかれば気がきいているのだろうが、伸子にはむずかしかった。
「ありゃ、たしかに気取ってるよ」
「――でも、わたしたちが、彼女の文章はむずかしいと云ったら、大変きげんがわるかったわねえ」