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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その歩道を一ブロック行った右手に、板囲いが立っていて、木戸があいていた。それは、まだ未完成な普請場によく見うけられるような板囲いと木戸だった。板囲いの上に、「この内に便所なし」と大きく書いたはり紙がされている、伸子は、わざと素子に予告なしで急にその木戸を入った。
「なんだ、こんなとこを入るのか」
素子もついて木戸の中へ入ると、樽だの古材だのが雪の下からのぞいている細長い空地があって、そこをぬけるとかなりひろい内庭へ出た。雪の上に四本黒く踏つけ道がついている。コンクリートの新しいしっかりした五階の建物が、コの字形にその内庭をかこんで建っていた。
伸子は、まだ黙ったまま、四本の踏みつけ道の一番とっつきの一本を辿って、一つの入口から、階段をのぼりはじめた。
入口や階段口にはむき出しの電燈がともっていた。コンクリート床の隅に、建築につかったあまりらしいセメント袋がつみ重ねられたままある。手すりもコンクリートで武骨にうち出されている。あんまりひろくない階段を、伸子は、素子をおどろかしているのがうれしくてたまらない顔つきで、一歩一歩無言のままのぼった。建築されてからまだ一二年しか経っていないらしいその大きい建物の内部は、適度な煖房のあたたかみにまじってかすかにコンクリートの匂いをさせている。