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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

三階へのぼり切ると、伸子は防寒扉の黒いおもてに35と白ペンキで書いた扉の前にとまった。

「ここなの」

「なるほどね。これじゃ、ぶこちゃんが亢奮するのも尤だ」

さっき伸子が一人で見に来たときには、髪にマルセル・ウェーヴをかけて、紺のワンピースをきた大柄な細君と五つばかりの男の児しかいなかった。こんどは、赭っぽい鼻髭をつけ、藪のような眉をした丸顔のルイバコフそのひとが帰って来ていた。入口に、ソヴェトの技師たちがみんなかぶる緑色の鍔つき帽がかかっていた。

ルイバコフの話によれば、建物は、鉄道労働者組合の住宅協同部が建てたものなのだそうだった。

「鉄道の組合は、ソヴェトの労働組合でも化学をのぞけば最も大規模な一つですからね、おそらく、この建物は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に建った組合の建物の中じゃ、一番早かった部でしょう」

十年の年賦がすむと、その四つの部屋と浴室、共同の物干場をもったアパートメントはルイバコフの所有になるのだった。あいている一室を利用することは伸子たちの便利と同時に、ルイバコフの経済にも便利だ。従って室代も決して不合理には要求しようと思わない。