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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

二

いかにも雪の下から咲いた早春の花らしく茎のせいが低かった。手袋をはめた指先で摘むようにその小さい花束をもち、アパートメントの段をのぼって行きながら、伸子は顔をよせて香をかいだ。雪の下の真白い花はかおりらしい香ももっていない。それでも、これは、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の春の初花にちがいなかった。伸子は、ガラスの小さい杯に水を入れて花束をそこにさした。そして、大机の自分の領分に飾った。ガラス杯の細いふちに春の光線がきらめいている。窓のそとのフラム・フリスタ・スパシーチェリヤの丘の上は、そこも一面の雪どけで、不規則に反射する明るさのために大きな金の円屋根はひとしお金色にかがやいて見える。

――伸子は、ものを書きはじめた。

二

その日は日曜日だった。素子は、この頃たいてい毎日モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学の文科の講義をききに行っていた。その留守の間、伸子は一人をたのしく室にいた。そして伸子の旅費を出している文明社へ送るためにモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の印象記を書いていた。日曜は素子の大学も休みだし、従って一つしかテーブルのない室では伸子の書く方も休日にならないわけにゆかず、二人は、ゆっくりおきて、素子は背が高いからそっちに臥ているベッドの方を、伸子は背が低いからこっち