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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、やっと裁縫師のところを思いついた。室へ戻ると、それをきっかけのように素子がテーブルのあっち側に立ち上った。
「じゃ、出かけましょうか」
ひどくあっさりときり出した。
「あなたもその辺まで御一緒に、いかがです?」
素子独特の淡白さで、着がえのために宮野に室から出て貰った。衣裳ダンスの前で上衣を出しかけている素子の耳へ口をよせて伸子が心配そうにささやいた。
「行くところ、わかってる?」
素子はニヤリとした。そしてテーブルのところへ行って引出しから財布を出しながら、そばへよって行った伸子にだけきこえる声で、
「ついて来りゃいいのさ」
と云った。
外へ出ると、春のはじめの快晴の日曜日らしさが町にも並木道の上にもあふれていた。ふだんよりゆっくり歩いている通行人たちはまだ防寒外套こそ着ているけれども、膝頭まであるワーレンキがたいてい軽いゴムのオヴァ・シューズだった。車道との間にはとけたきたない雪だまりと雪どけ水の小川が出来ているが、きょうは歩道の真中が乾いて石があらわれている。伸子たちにとっては、春がきたモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の歩道をじかに踏む第一日だった。