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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
並木道も、よごれた雪の堆積がまだどっさりあるけれども、真中にひとすじ、柔かなしっとりした黒い土があらわれている。名残りの雪がその辺の到るところにあるだけに、その間にひとすじのあらわれた黒い土は、胸のときめくような新鮮さだった。艷と、もう芽立ちの用意のみえる並木道の菩提樹や楓のしなやかさをました枝のこまやかなかげは、その樹々の根っこに残雪をもって瑞々しさはひとしお感覚に迫った。
得体のしれない客に気分を圧しつけられていた伸子はしっとりした黒い土の上の道を、往き来の群集にまじって歩きながらふかい溜息をつくように、
「ああ、防寒靴をぬいでしまいたい!」
と云った。冬のぼてついたものは、みんな体からぬいでしまいたい。早春の日曜日の並木道は、すべての人々をそういう心持にさせる風景だった。それでも、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)人は北方の季節の重厚なうつりかわりをよく知っていて、まだガローシをぬいでいるものはなかったし、外套のボタンをはずしているものもなかった。とける雪、暖くしめった大地、芽立とうとしている樹木のかすかな樹液のにおい。それらが交りあって柔かく濃い空気をたのしみながら、伸子と素子とはしばらくだまって並木道を歩いて行った。