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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
四
――伸子は、その人々の苦闘ともがきの中にいなかったし、この社会に存在の場所を与えられずに生きつづけて来た者の一人ではない。その人たちの作家というには遠いものだったのだ。食事のために素子と会う約束の時間が来るまで、伸子はアストージェンカの室のディヴァンの上へよこになって考えこんでいた。
作家生活の三十年を記念するマクシム・ゴーリキイ展は日がたつにつれ、全市的な催しになった。五月中旬には、五年ぶりでゴーリキイがソヴェトへ帰って来るという予告が出て、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)では工場のクラブ図書室から本屋の店にまで、「マクシム・ゴーリキイの隅」がこしらえられた。伸子たちがもと住んでいたトゥウェルスカヤ通りの中央出版所のがらんとした飾窓にも、人体の内臓模型の上にゴーリキイの大きい肖像画がかかげられた。
四
そういう四月はじめの或る晩のことだった。
伸子はアストージェンカの室の窓ぎわで、宵の街路を見おろしていた。そして街の騒音に耳を傾けていた。その日の昼ごろ、伸子が外出していた間に、伸子たちの室も窓の目貼りがとられた。帰って来てちっとも知らずにドアをあけた伸子は、室へふみこんだとき彼女に向ってなだれかかって来た騒音にびっくりした。