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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ありがとう、お嬢さん。あなたは御親切です」
「外套をきて来るからね」
「わたし待ちます」
伸子は室へ戻り、外套を出しながら、
「一寸ニューラが洗濯もの干すのについて行ってやることよ」
と素子に告げた。
「てっぺんで、一人でそこまで行くのがこわいんだって」
「――ぶこだって大丈夫なのかい? いまごろ」
「だって建物の中だもの」
「そりゃそうだけど……」
「大丈夫だことよ。じゃ、ね」
ニューラとつれ立ってアパートメントを出た。ニューラは普通の外出のときのとおりちゃんと表戸をしめた。コンクリートのむき出しの階段には、それぞれの階の踊場に燭光の小さいはだか電燈がついているぎりで、しめきられたアパートメントのいくつもの戸と人っ子一人いない階段に二人の跫音が反響した。ニューラのこわがったのもわかる寂しさだった。二人は、黙って足早に六階まで登って行った。六階までのぼりきると、つき当りがガラス戸のしまった露台になっていて、右手に、やっぱりはだか電燈のついた一つのドアがあった。その前で止ると、
「ここなんです」
ニューラはポケットから鍵を出してドアをあけた。はだかの電燈に照しだされて、天井の低いその広間いっぱいに綱がはられているのや、あっちこっちにいろんな物の干してあるのが見えた。