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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「さあ……」
「見えますか」
「いいや」
尾の房々と長く垂れた白馬にまたがった一人の将校を先頭に黒馬に騎った十余人の一団が、猟人広場の方から赤い広場へ入って来た。広場へ入ると、その騎馬の一団は広場のふちにそって足で外交団席の前を通り、赤い演壇の下を進んで、伸子たちのいる観覧席の少し手前まで来た。観覧席に向って進んで来る白馬の騎兵をじっと見守っていた伸子が、
「ブジョンヌイよ!」
びっくりしたような、よろこばしいような声を立てた。
「あの髭! あの髭はブジョンヌイだわ!」
白馬にのった将校の顔の上には、ほかの誰もつけていない大きい黒髭が、顔はばを超して左右にのびていた。
「ほんとだ!」
素子も、おもしろそうに肯定した。一九一七年から二〇年にかけてウクライナで革命のために活躍した第一騎兵隊と云えば、その英雄的な物語は戯曲のテーマにもなっていた。ブジョンヌイは、その第一騎兵隊の組織者、指導者として、コサック風の大髭とともに、伸子のような外国人にさえ親愛の感情をもたれていた。
騎馬の一団は、伸子たちが目をはなさず見守っている観覧席の前を通りすぎて、一番はずれの観覧席のところまで行った。