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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そういう人々の住んでいる、伸子が見たこともなく快適な住居で、主人と泰造とが談笑しているとき、誰かが検挙された共産党を、少くともそれが生れる必然を肯定して話したとしたら、主人も泰造もどんな顔をするだろう。泰造はきっと、場所柄を考えずそんな話題をもちだした者の常識なさをとがめるだろう。でも、その場合の常識とは何だろう。富豪で権力をもっている人が、共産党の話なんかはきらうというその人たちの気分の側に立った泰造の判断であり、その人たちがきらうことを、よくないこととする通念にしたがう泰造の判断でなかったろうか。
伸子は、心ひそかに父の泰造を誇って来ていた。日本で有数の建築家として。役人でも実業家でもなく、軍人や政治家でもなくて、自分の父は建築家であり民間の独立した一人の技術家であるということを、文学を愛するような年ごろになってからの伸子は、どんなに心の誇りとして来たろう。
けれども、泰造の建築家としての独立性はほんとに狭い範囲のもので、根本では、民間の大建築を行う経済能力をもった者によって活動を支配されていることがわかったのは、伸子にとってそう遠いことではなかった。