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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「何があったんだろう」
「さあ……」
動坂のうちの人たちとして、伸子にそういう電報を打つだけの何かはあったのだろう。しかし、伸子は、その動機を、すぐに、自分の生活を変えるだけ重大なものとしてうけとる気持になれなかった。
廊下のはずれにある伸子の室まで二人で来て、伸子はベッドに腰かけ、もう一遍電報を見た。やっぱり、シキウキチヨウアリタシとしか書かれていない。
「何てうちは相かわらずなんだろう。電報まで電話そっくりなんだもの――伸ちゃん、一寸話があるからすぐ来ておくれ。――ここにいるものにすぐ帰れなんて……」
素子はタバコに火をつけて、それをふかしながら、窓の外を見てしきりに考えている。動坂の家を出て別に暮すようになってから、多計代からの電話というと、伸子にはきかない先から用がわかる習慣になってしまった。ああ、もしもし伸ちゃんかえ。ぜひ話したいことがあるから、すぐ来ておくれ。多計代のいうことはきまっていた。
はじめの頃、伸子は呼び出されるとりつぎ電話の口で、ほんとに何か火急な用が出来たのかと思って、当惑したりびっくりしたりした。家の戸締りをして、留守に帰って来る佃のために書きおきして、住んでいた路地の間の家から急いで歩いて動坂の家へ行った。