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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
一つの列が通っているとき、それに遮られてパンシオン・ソモロフの女中のダーシャが、腕に籠をひっかけて向い側の歩道に佇んでいるのがヴェランダから見えた。いつも葡萄酒色のさめた大前掛をスカートいっぱいに巻きつけて働いてばかりいるダーシャを、外光の中で見るのは珍しかった。ダーシャも、列に道をさえぎられた一二分にむしろ休息を見出しているように立って眺めている。このダーシャは、伸子が保の死んだしらせをうけとって、まだ自分の部屋で食事をしていたころ、朝食をのせて運んで来た盆をテーブルの上へおろすと、改めてエプロンで拭いた手を、ベッドにおき上っていた伸子にさし出した。そして、
「おくやみを申します」
と言った。
「弟さんが死なれましたそうで――おおかた学生さんだったんでしょうね」
もう四十をいくつか越しているらしいダーシャは重いため息をした。
「もとは、こっちでもちょくちょくそういうことがあったものです。神よ、彼の平安とともにあれ」
ダーシャは祈祷の文句をとなえて胸の上に十字を切った。
もとは、こっちでもちょくちょくそういうことがあったもんですというダーシャの言葉と、学生さんだったんでしょうね、と疑う余地ないように言ったダーシャの感じとりかたが、伸子の感銘にきざまれた。