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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

自分もそのなかで育ったという事実をこめて。保の死は、動坂の家がどんなに変質してい、また崩壊しつつあるかという現実を伸子につきつけて思いしらした。

ひとりでじっとしていると、伸子の心にはくずれてゆく動坂の家の思いが執拗に湧いた。パンシオン・ソモロフのヴェランダの手摺に両方の腕をさしかわしてのせ、その上へ顎をのせ、伸子が目をやっているデーツコエ・セローの大公園の森はもうほとんど暗かった。黒い森の上に青エナメルでもかけたような光沢をもってくれのこった夕空が憂鬱に美しく輝いている。伸子の心の中に奇妙なあらそいがあった。心の中で、又しても動坂の家がそのなかへ佐々伸子の半生をこめて、あっちへ、あっちへと遠ざかって行っていた。動坂の家といっしょに伸子の体からはなれて漂い去っていく伸子は、佐々伸子からひきちぎられたうしろ半分であった。目鼻のついた顔ののこり半面は前を向いて、今いるここのところにしがみついて決してそこから離れまいとしている。動坂の家というものが遠くになればなるほど、伸子が自分の片身で固執している今この場所の感覚がつよまって、伸子はいつの間にか素子がわきに来たのにも気がつかなかった。