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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
へと移って来ているけれども、それはリアリズムそのものを押して発展させて動いて来ているんです。メイエルホリドはあんな風に様式化して、動的にやろうとしているけれど、ああいう線が本質的にどこまでも発展できるのかしら……。わたし、ム・ハ・トが、歌舞伎の隈に大して関心を示さなかったのに、メイエルホリドが熱心だったっていうの、少くとも吉之助さんとしては考えていい問題だと思うんだけれど」
「――歌舞伎だって世話ものには菊五郎のリアリズムだってあるよ」
反駁するように芝居ずきの素子が云った。
「こっちじゃ、時代ものしかやりませんでしたからね。そのせいもあるかもしれませんね」
吉之助が日本へ帰らなければならない時が迫って来た。けれども、同じホテルにいる伸子たちとのつき合いは、はじめと同じに、三四日顔も合わせないまますぎてゆく工合だった。吉之助と伸子たちの間にあるのは、もう不安定なところのない友人の気持だけだった。吉之助が珍しく伸子たちの室に長居して家庭生活の問題も出た夜、素子は、吉之助が去ったあともテーブルのところから動かなかった。そしてその晩、会話の底を流れて、吉之助の上へは影も投げず自分の心の内にだけ推移した心持を思いかえしているようだった。