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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ソコーリスキーが何かの関係でことわりにくいルケアーノフの細君をときふせて、部屋のやりくりをさせたことはいよいよ明瞭になった。ゆっくり口をきく真面目な細君は、伸子たちに対して、主婦としてはっきりしたことの云いきれない極りわるさとともに、夫に独断で外国人を家庭に入れたりしたことに不安を感じているのだった。
「いいじゃないの、パッサージへたべに行けば」
日本語で伸子が云った。
「うちの人が気持いいんだもの」
素子が、むしろ細君の不安をしずめるように、
「かまいませんよ」
と云った。
「何とかなります。心配なさらないでいいんです」
「オーチェン・ジャールコ(大変残念です)」
心からの声で細君がそう云った。しばらく考えていて細君としては些細な、けれども伸子たちにとっては大いに助かる申し出が追加された。
「お茶は、わたしどものところで用意できます。朝と晩――」
翌々日出張さきから帰って来たルケアーノフは、物の云いかたも服装も地味な五十がらみの小柄な撫で肩の男だった。大して英雄的な行動もなかったかわり、正直に一九一七年の革命を経験して、実直に運輸省の官吏として働いている、そういう感じの人物だった。