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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ルケアーノフの眼も、細君の眼と同じ暖い鳶色をしている。二つのちがいは、ルケアーノフの眼の方が、細君の眼の明るさにくらべて、いくらかの憂鬱を沈めているだけだった。娘が二人いた。やせて小柄で気取っている上の娘は去年モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学を卒業してどこかへ勤めている。下の娘は、来年専門学校へ入るぽってりとした母親似の少女で、母親よりもっと澄んだ鳶色の眼に、同じ色の艷のいい髪をおかっぱにしている。この下の娘が伸子たちの室へ茶を運んで来た。ドアをゆっくり二つノックして、

「いいですか?(モージュノ?)」

どこかまだ子供っぽい声で、ゆっくり声をかけ、ついにっこりする笑顔で茶の盆をさし出した。

ルケアーノフの質素な家庭には、伸子と素子の語学の教師であるマリア・グレゴーリエヴナとその夫でヴ・オ・ク・スに働いているノヴァミルスキー夫妻のクワルティーラにあるような雰囲気があった。みんながそれぞれに自分たちのすべき仕事を熱心にし、乏しくないまでも無駄のゆとりはない暮しぶりだった。夫のノヴァミルスキーと妻のマリア・グレゴーリエヴナが、夫婦とも同じように外気にさらされて赤い頬と、同じようにすこしその先が上向きかげんの鼻をもっているように、ルケアーノフの夫婦と二人の娘たちは、みんな鳶色の眼とゆっくりしたロシア