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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
七
そうなれば、たった一人で降る雪ばかり見える窓に向いて、正餐をたべる勇気は伸子になかった。正餐には伸子がパッサージへ出かけて行くことにきまった。
七
舞台では、人々の耳になじみぶかい華麗な乾杯のコーラスの余韻をひきながらオペラ「椿姫」の第一幕めのカーテンがおりたばかりだった。
二階のバルコニーの第一列に並んでいる伸子と素子のところへ、一人の金髪のピオニェールのなりをした少年があらわれた。ピオニェールの少年は、素子のわきへよって来た。そして、そばかすのある顔じゅうにひどく陽気な好奇心を踊らして、
「それ、望遠鏡ですか」
素子のきなこ色のスカートの膝におかれていた双眼鏡をさした。
「ああ。――なぜ?」
「僕はじめてこういうものを見たんです。ずっと遠くまで見えるんですか」
「そんなに遠くは見えないさ、オペラ・グラスだもの――舞台を見るためのものだから」
赤い繻子のネクタイをひろく胸の前に結んでさげているピオニェールは、ちょっと素子の云っていることがわからない表情をした。
「それで見てもいいですか」
素子は、オペラ・グラスをそのピオニェールにわたした。そして、もちかたや、二つのレンズの真中にある銀色の軸をまわして、距離を調節する方法などを教えた。