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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ああ、いい気持。ナターシャ、こんどはあなたの番よ」
「ハラショー」
入院して一ヵ月以上たったこのごろ伸子とナターシャとの間には、看護婦と患者とのありふれた交渉より、もうすこし友情に近い感情がうまれていた。その感情は、ナターシャの側ではごく淡白なもので、むしろ伸子のこころもちが、身重なナターシャの一挙一動に関心をそそられている状態だった。伸子のその感情は、はじめまるで逆なきっかけから成長した。
入院して五日ばかりたったとき、フロムゴリド教授が、伸子に治療として毎日の入浴を命じた。その午後、車椅子をころがして、
「お風呂へ行きましょう」
と病室へ入って来たのが、いま思えばナターシャであった。痛さでくたびれ、ぼんやりしている伸子の視線に、入ってきた赤い頬っぺたの若い看護婦のおなかがかなり大きいのがうつった。伸子はその看護婦に扶けられて、どうやらベッドから両脚をおろした。が、痛みでどこもかしこも強ばっている体ではどうしてもベッドから車椅子に乗りうつる一つ二つの身ごなしがままにならなかった。身重の若い看護婦は赤い頬をなお赤くして、両腕で動けない伸子の体を車椅子へひっぱり乗せようとするが、二人ともが似たりよったりの背たけしかなく、その二人が、めいめいの体にいたわらなければならないところをもっているので、伸子と看護婦とは