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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

を伸子の女の感覚に訴えた。

伸子は、身持ちのナターシャに絶大の注意をむけはじめた。

伸子の入院している婦人ばかりの病棟では六人の看護婦が二十四時間を八時間制の三交代で勤務していた。看護婦が、乳母という意味ももつニャーニャという言葉でよばれているのは、いかにもロシア風な人なつこさだった。また、ニャーニャという昔ながらのよび名が彼女たちの実際にもふさわしかった。というのは六人の看護婦のうち、いくらかでも系統だった医学の知識をもっているのは身もちのナターシャだけで、あとの五人はどれも年とった女たちで、親切と辛抱づよさと看病の経験をもっているだけの、よその国でいう雑仕婦だった。

朝の掃除の時間に、ナターシャが押し棒の先に濡雑巾のついた掃除道具をもって廊下から入って来るのを見ると、伸子は活気づいた。背の低いがんじょうづくりのナターシャは、艷のいい栗色のちぢれ毛と、そのちぢれ毛に似合った大きくていくらか動物的で勝気らしい眼をもっている。ナターシャは、ゆっくり丁寧に長椅子の下からベッドのかげにまで濡雑巾をかけた。どういう仕事をするときでもナターシャはいそがない。