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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

――なかなかいい」

権田正助は、枕についている伸子の顔を正面から見ながら、

「ところで病気っていうのはどうなんです」

ときいた。

「どこがわるいのかしらないが、いっこうやつれていないじゃないですか。それどころか、艷々したもんだ。いい顔の色ですよ」

伸子には、権田正助というような商売の人が、まるで見当ちがいな自分の見舞いに来てくれたということが思いがけなかったし、その上、調子の太いもの云いにあいてしにくい感じがした。

「あなたはいつこっちへいらしたんです」

伸子は話題を自分からはなして権田の側へうつした。

「こっちにも、何かお仕事があるんですか」

短く刈って前の方だけ長めな髪を左分けにしている頭のうしろを、ばさっと払うようにした片手を膝におとして、権田正助は、

「それがね、面倒くさくてね」

と云った。

「あなた、ブラック・プリンスっていう船の名をきいたことがあるでしょう? 有名なもんだから」

「――さあ、知らないけれど」

「ブラック・プリンスっていうロシアの大きな船が黒海のある地点に沈んだままになっているはずなんです。こんどは一つそいつをあげて見ようと思ってね、それでやって来たんですが、四の五の云って、ちっともらちがあかない」