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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
どういう方法で乾燥させるのか、花々は鮮やかなもとの色をあんまり褪せさせずにいて、柔かい緑の苔が秋の色づいた黄色い楓の葉ととりあわせて面白く貼られていたりした。それらの花や苔や草の穂は、伸子にレーニングラードのそばのデーツコエ・セローでくらした去年の夏を思い出させた。そこの野原の夏風にそよいでいた草や花をしのばせ、保が死んだという電報をうけとったとき、パンシオン・ソモロフの伸子の室のテーブルの上にさされていた夏の野の草花を思いおこさせた。押し花は忘られない八月を伸子の心によみがえらせ、伸子は一枚もとらずに返すことのできにくい心もちにされた。伸子は、ちがった組合わせで貼られている押し花を見つけ出しては、その余白に、短いたよりを書いて東京のうちや友達に送った。そういう伸子の買いものにナターシャは興味をもたなかった。
「きれいですね、よくこしらえてあります」
と云ったきりだった。それはナターシャとして自然な態度だった。乾燥して押された花は所詮思い出草にしかすぎない。自分の体のなかで旺盛な生の営みが行われているナターシャにはどんな思い出のよすががいるというのだろう。