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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
薄気味わるい後味をのこしたろう。
三・一五事件からあとの本国の空気を知らない伸子には、藤原威夫の出現も天皇論も多計代が彼のところへかけつけたということも、すべて普通でなくうけとれた。そしてその普通でない何かは、去年のメーデーの前、父の泰造が三・一五事件の新聞記事に赤インクでカギをつけてよこした、あのあくどい赤インクのカギが自分の動きに向って暗黙にかけられたように感じた、そのときの漠然とした感じより、はるかに内容をもっており、また意志的だった。藤原の来たのも話したのも個人としてのわけだのに伸子の心にのこされた後味には何をどうしようというのか伸子にわからないが、ともかく権力の感じが濃かった。そして、そのような権力を身のまわりに感じることは伸子を居心地わるくさせる一方だった。
その午後おそく素子が病室へ来たとき、伸子は待ちかねていたように、
「あなた藤原威夫って少佐に会った?」
ときいた。
「さっきここへ来たわよ」
「きみのおっかさんからたのまれたってんだろう?」
素子は皮肉な眼つきで浮かない伸子の顔つきを見ながら鞄からタバコを出しかけた。
「ひどく鄭重なお礼言のおことづけだった」