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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「いいことを思いついた。素敵! 素敵!」
それを思い出して伸子は素子の両手をつかまえた。
「ね、ほら、ドイツのどこかにバーデン・バーデンて有名な温泉場があったじゃないの、よく小説なんかに出て来る。――それからカルルスバードっていうところも。わたし、どっちかへ行くことにする」
ヨーロッパの温泉地がどういう風俗のところであるか、伸子たちがモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)暮しの習慣と、ろくな身なり一つ持たないでその雰囲気にまじれるものかどうかということについて、何ひとつ知らない伸子は、そういうことを知らないからこその単純さで自分の思いつきにすがりついた。手術をしないようにすること。そして、国外旅行の許可を得ること。その二つのために、カルルスバードかバーデン・バーデンへ治療に行くということは、ヨーロッパの人々の常識にとってよりどころのない理由ではないはずであった。午前中相談をかさねて、伸子はさしあたっては次のような電報を佐々のうちあてにうってもらうことを素子にたのんだ。「コンゲツスエマデニタイイン。マルセイユニテアウ」
十六
朝からの思いもうけない亢奮で疲れ、伸子は長い午睡をした。