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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その表情には、ちっとも皮肉がなく、伸子をあわれんでいるような、また伸子のその考えかたをあやぶんでいるような表情だった。伸子は、その表情に素子の無言の批評を感じて、
「どうして?」
とききかえした。
「いけないところがあると思う?」
「――よすぎるぐらいだろう」
素子は、
「肉親なんて、なんと言ったって大したもんさ」
と、沈んだ声で云った。伸子は、その声の調子から、素子の知りぬいている多計代を中心にパリのどこかでかたまった情景を描くと、素子はその家族の輪に決してしっくりはまることのあり得ない自身を急に一人別なものとして感じているにちがいなかった。伸子は、間接にその問題にふれ、しかし直接には自分の希望として、
「わたしたちは、うちのものとは別々に暮しましょうね」
と提案した。
「どうせわたしたちは、生活の内容がちがうんだし、サーヴィスばっかりじゃとても身がもたないから」
伸子たちが、すこし早めにパリへついていて、自分たちなりの暮しかたをはじめておれば、佐々のうちのものとすっかりまぜこぜになる必要もおこるまい。いくら、うちのものを満足させようと思う気になったにしろ、伸子は多計代が好むような交際や見物につき合うきりで辛抱できない自分であることはわかっているのだった。