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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十七
何ぞというとチョルトという言葉をつかって悪態をつくロシアの大人や子供が、冬じゅうめばりをした家の中ではき出した大小無数のチョルトが、春になって開いた戸口からみんなにげ出して、やれやれと穴へもぐったかと思うと伸子はひどく滑稽だった。
「わたしのロシア語じゃ、とてもこんなおかしさは話せないしさ。それこそまったくチョルトだと思っておかしくって……」
伸子は安心を笑いにとかし出して素子とふざけた。
十七
手術しなくていいときまって、伸子はなるたけ一日のうちの長い時間をベッドから出て、起きている稽古をはじめた。三月中に退院することについて現実のよりどころができた。フランスでうちのものたちと合流するという計画も実際的に考えられて来た。三月十四日に間に合うように和一郎と小枝との結婚を祝う電報をうったなかに伸子はハハノケンコウノタメアメリカケイユデコラレヨと云ってやった。糖尿病からのアセモがひどくて、毎年夏は東京にもいられない多計代が、どうして真夏の欧州航路で印度洋の暑熱をとおって来る気になっているのだろう。伸子はだんだん考えを実際的にひろげて行って、それを無謀だと思った。