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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そこへ、黒背広に縞ズボンのきちんとした服装で瀬川雅夫が入って来た。日本のロシア語の代表的な専門家として瀬川雅夫も国賓だった。演劇専門の佐内満は十日ばかり前にモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)からベルリンへ立ったというところだった。

「お早うございます。――いかがです? よくおやすみでしたか」

秋山宇一は無産派の芸術家らしく、半白の長めな髪を総髪のような工合にかき上げている。瀬川雅夫は教授らしく髪をわけ、髭をたくわえている。それはいかにもめいめいのもっているその人らしさであった。その人らしいと云えば内海厚は、柔かい髪をぴったりと横幅のひろい額の上に梳きつけて、黒ぶちのロイド眼鏡をかけているのだが、その髪と眼鏡と上唇のうすい表情とが、伸子に十九世紀のおしまい頃のロシアの大学生を思いおこさせた。内海厚自身、その感じが気に入っていなくはないらしかった。

やがて五人の日本人はテーブルを囲んで、茶道具類とパン、バタなどをとりよせ、殆ど衣類は入っていない秋山の衣裳箪笥の棚にしまってあったゆうべののこりの、塩漬胡瓜やチーズ、赤いきれいなイクラなどで朝飯をはじめた。