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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ね?」
「ほんとだ。真白だ」
素子は自分のパンもさいてみて、
「パンが白いっておどろくんだから、われわれも結構田舎ものになったもんさね」
と苦笑した。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)では、黒パンと茶っぽい粉でやいたコッペのような形のパンしかなかった。それに馴れてしまっていた伸子は、いま皿の上で何心なく割いたフランス・パンの柔かい白さに目から先におどろいた気持がしたのだった。でも、伸子には、雪白なパンの色が白ければ白いほど、それは何だかあたりのうすよごれた雰囲気と調和せず、ウイ・マダームとかウイ・メダーメとしか云わない瘠せこけた爺さんの給仕の依估地さと似合わないものに感じられるのだった。
食事がすんで、ロビーへ出て来ながら、素子が、ひやかし半分伸子に云った。
「ぶこちゃんにもなかなかいいところがある。ヨーロッパへ出てきての第一声が、あら、白いパン! てのは天衣無縫だ」
「だって、ほんとにそうじゃない?」
「だからさ、天衣無縫なのさ」
それにしても、ワルシャワの人々の、ロシアに対する無言の反撥は、何と根ぶかいだろう。帝政時代には、ポーランド語で教育をうけることさえ禁じられていた人々が、古いロシアへ恨みをもっているというのなら、伸子にものみこめた。