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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それは何かの合図だった。忽ち、そのトラックにいたカーキ色レイン・コートの連中が棒を片手にトラックの両側からとびおり、あとにつづく二台のトラックから同じようにしてとびおりて駈け集った連中と一隊になって、す早く、その狭い右手の町口にかたまった。何事かがはじまった。そのときになって、伸子たちは発見した。自分たちのまわりがいつの間にか群集でかこまれている。どこから、いつ、これだけの人が出てきたのだろう。ついさっきまで、広場には、カーキ色の連中のほかに、伸子と素子の姿しか見あたらなかったのに。無気味に、がらんとしていた広場だったのに、いま伸子たちが爪立って前方を眺めようとしている横通りへの出口あたりは、黒山の人だった。その群集の頭ごしに、まだかなりの距離をもってこちらへ向って進んで来る赤旗が見えた。伸子のところから眺められる赤旗は十本たらずの数だった。伸子は赤旗が目に入ったと同時に、異様な衝撃を感じた。赤旗は黙って進んで来る。メーデーの歌の声一つそっちからきこえて来ない。赤旗がこちらに向って前進して来る歩調はかなり速かった。歌声もなく、十本足らずの赤旗はどこか悲しそうに、しかしかたく決心している者のようにいくらか旗頭を前方へ傾け、執拗に一直線に進んで来る。