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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、そんなにして買物をたのしんでいる素子に対して、傷つけられた自分の気持を恢復できず、離れた気分でいるのだった。
けさ、ホテルで、素子はどうしてあんなに伸子をおこらなければならなかったのだろう。自分の着がえのブラウスが、手まわりのスーツ・ケースに入っていなかったからと云って。ベッドのわきで着がえをはじめた素子は、さきに着てしまっていた伸子に、スーツ・ケースからブラウスを出すことをたのんだ。伸子はスーツ・ケースの下まで見た。が、素子のいう白いクレープ・デシンのブラウスは見当らなかった。伸子は、うっかりした調子で、
「どうしたのかしら、……ないわ」
と云った。
「ないことあるもんか。あれはたった一枚のましなんだから、入れなかったはずありゃしない。見なさい」
「ほんとに入っていないのよ……どうしたのかしら」
手ごろなスーツ・ケースが伸子の分一つしかなくて、その一つに、素子のと伸子のと、二人ぶんの手まわりを入れて来ているのだった。
「ぶこがつめたんじゃないか」
まだカーテンをあけず、電燈にてらされている寝室の中で、スリップの上にスカートだけをつけた立ち姿の素子が、こわい眼つきと声とで、