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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その英字新聞は五月三日のベルリン市の状況を報道するのに、何より先に外国人はウンテル・デン・リンデンを全く安全に通行することができる、と書いたような性質の新聞であった。ハンブルグにジェネストがおこりかかっていることも、調査委員会が組織されたことも、その英字新聞は、直接ベルリンのメーデー事件に関係したことではないように、まるでそれぞれが独立したニュースであるかのように同じ頁のあっちこっちにばら撒いてあるのだった。
伸子と素子とは、黒川隆三が世話してくれた下宿の三階の陽あたりのいい窓の前におかれたテーブルのところで、ゆっくりそういう新聞紙に目をとおした。
繁華なケルントナー・ストラッセからそう遠くない静かな横通りにあるその下宿は、伸子たち女づれの旅行者にホテルぐらしとちがった質素なおちつきを与え、黒い仕着せの胸から白いエプロンをきちんとかけ、レースの頭飾りをつけた行儀のいい女中がパン、コーヒー、ウィンナ・ソーセージの朝飯の盆を運んで来たりするとき、伸子は明るいテーブルのところにかけていて、このウィーン暮しが二週間足らずで終るものだということを忘れがちな雰囲気につつまれた。