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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「ロシアの人は昔からよくお茶をのむことが小説にも出て来ますが、来てみると、実際にのみたくなるから妙ですよ」

瀬川雅夫がそう云った。

「日本でも信州あたりの人はよくお茶をのみますね――大体寒い地方は、そうじゃないですか」

もち前の啓蒙的な口調で、秋山が答えている。

うまい塩漬胡瓜をうす切れにしてバタをつけたパンに添えてたべながらも、伸子の眼は雪の降っている窓のそとへひかれがちだった。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の雪……活々した感情が動いて、伸子のこころをしずかにさせないのであった。雪そのものについてだけ云うならば、ハルビンを出たシベリア鉄道が、バイカル湖にかかってから大ロシアへ出るまで数日の間、伸子たちは十二月中旬の果しないシベリアの雪を朝から夜まで車窓に見て来た。それは曠野の雪だった。雪と氷柱につつまれたステイションで、列車の発着をつげる鐘の音が、カン、カン、カンと凍りついたシベリアの大気の燦きのなかに響く。白い寂寞は美しかった。列車がノヴォシビリスクに着いたとき、いつものとおり外気を吸おうとして雪の上へおりた伸子は、凍りきってキラキラ明るく光る空気がまるでかたくて、鼻の穴に吸いこまれて来ないのにびっくりした。